312819 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

EP23「BLACK-VI」

 -新防衛政府海上基地 資料保管庫-

 BLACK-VIの言葉を思い出して掴んだ心当たり。それを探しに俺はここに来た。
一般人は勿論、政府の上層部しか立ち入りの許されないこの資料保管庫。
俺は警備員が交代する瞬間を狙って、無断でここに立ち入っている。一応、資料が見える最小限の電気しかつけていない。
バレた場合、俺は部隊から降ろされ、犯罪者扱いになるかもしれない。いや、死刑かも。

真「っと・・・。」

 資料が棚に所狭しと並んでいるだけのこの部屋で、俺は目を細めながら目的の資料を探した。
指で資料を掴んで、表紙を見てはまた戻す。単調なこの作業を何回も繰り返していた。
 もう数十分経っただろうか。ようやく目的の"あるべきではない"資料を見つけた。

真「コイツだ!」

 俺はその資料を机の上に広げた。

 -極秘資料 疑心及び恐怖心抹消用薬品について-


 EP23「BLACK-VI」


 俺の勘は正しかった。俺たちは騙されていたのに、それを疑えない状況に無理やり落とされていたのだ。
大雑把に説明すると、真実はこうだ。
 初めから新防衛政府はARSを壊滅させ、政府からの資金を全て自分達の方へと回そうとしていた。
多大な資金の大半は軍備に使われるが、残りは人件費という名目で長官の懐行きが確定していたという話だ。
俺たちは長官の懐を暖めるために集められ、その延長線上で"防衛"するということだった。
勿論、そんな他人の懐のために全力を尽くそうなどと言う馬鹿はこの世にいないと断言しよう。
むしろいたら一度拝んだ後にグーでボコボコにしてやる。
とまぁ、こんな事を思う大衆を何とかして動かそうとしている奴らは考えた。
 人が信じるその過程には、かならず疑心が存在する。つまりは疑心が無ければ人は簡単に揺らせるという事だ。
なら疑心を消せばいいじゃないか。そこでこの薬品が完成したそうだ。
詳しい成分とかは分からないが、脳の感情神経を刺激することで疑心を消せるらしい。
まったく才能の無駄遣いとはこのことだ。疑心を消すついでに、作戦への拒みを消すために恐怖心も抹消してしまおうと考えた。
疑心と恐怖心を消された駒は、言い換えれば絶対服従の駒となる。
しかもそれは時間が経っていく毎に、再び疑心や恐怖心を芽生えさせ、結局はその時の事を当然の事と思うようになる。
つまり、その時に犯した過ちが基準となってしまうのだ。全くもって都合よすぎる話だ。
防衛政府はこの絶対服従の駒を駆使して、というか駆使もクソもないが、ARSを追い詰めたのだ。
 アイツとかなり親しい存在である俺は、そうそうと政府にピックアップされ、早めにその薬品を打ち込まれた。
それがセイヴァーへ乗るためのメディカルチェックの時というワケだ。
疑心も恐怖心も無い俺は、何の疑いも無く石田野朗の嘘を本当と信じ込み、疑うことなく無意識にアイツに怒りを覚えた。
 疑う事ができたなら、俺は直接アイツと話し合う事ができただろう。わざわざARSを襲撃することもしなくてよかった。
あの時いたリネクサスは、きっとこのチャンスを見計らっての事だったのだろう。
さっきの戦闘でも、リネクサスの大将はそれっぽいことを言っていた。俺は本当に馬鹿な奴だ。
 真実が分かった今、俺はここで何が出来るかを考えた。すでにマスコミは新防衛政府を信用しきっている。
これは疑心ではなく、目に見えたものを信じ込む人間の性質がそうさせているのだろう。
今更俺一人が、リネクサスの策士が仕込んだ罠だったといっても、耳を傾けるのは数人しかいない。
 ここで暴動を起こすのはどうかと考えたが、青葉姉妹という強敵が立ちはだかった。
演習で何度か戦ったが、あの姉妹はそう簡単にやられてくれる相手ではない。
捕まっているARSの皆と協力して倒す事も考えたが、ARSの機神たちもハッキングで役立たずになっている。
結局一人で戦う事に変わりなかった。

真「残す手は一つか・・・。」

 俺はポケットから携帯電話を取り出した。アドレス帳を開き、は行の欄の一番下にある人物にカーソルを合わせた。
だが、俺は決定ボタンを押すことなく、待ち受け画面に戻して携帯を閉じた。
元はといえば俺が撒いた種だ。俺が刈り取らないといけないけない。

真「大丈夫だ、俺にはセイヴァーがある。」

 出しっぱなしの書類を覚えている範囲で元の位置に戻し、俺は身を低くして、ドアの隙間から外の様子を伺った。
どうやら、ちょうど人がいないようだ。この機を逃さず、俺はダッシュで自室まで戻った。


 -8/11 AM09:32 旧ARS本部 新防衛政府本部基地-

隆昭「あのエルゼのお陰で、立場がこうも悪くなるとはな・・・。」
???「海上基地のほうじゃ、ついに疑問を抱き始めた奴も出てきているんじゃないか?
    あの事件の後に長官だけいなくなるというのもおかしいだろうに。」

 大柄の男は石田の方を見て笑った。

隆昭「壊れたものについては、また薬を投与すればいい。
   もしもの時は頼んだぞ、あれは鳳覇 茜監修の元に出来た本当の"機神"だ。」
???「あぁ、勿論。俺もそれが仕事だからな。
    ・・・それはそうと、あのBLACK-VIって奴はどうする?」
隆昭「殺して構わん。正体不明の輩は不都合でしかない。」
???「分かったぜ。そんじゃ、俺は出撃してくる。」

 男は立ち上がり、外に出て行った。

隆昭「どうかしたのか?」
???「お前の命が最優先ってことだから無視していたが、虫がケツにくっ付いてきてるようだ。
    マッハ5の化け物がな。」
隆昭「BLACK-VIが・・・!?」
焔「安心しろ、この"大道寺 焔(だいどうじ ほむら)"と機神"ヴォルケーノ"で燃やし尽くしてやる。」


 -同刻 旧ARS本部 新防衛政府本部基地 上空-

 俺はリベリオンの中で相手の出方をみていた。逃げた石田の後を追ってみたが、本部に来るとは想定外だった。
さっきの戦闘で言っていた防衛政府とリネクサスと組んでいた事は軍内部で知れ渡っているのだろうか。
だから石田は隠れることをせずに、堂々と本部にいられるわけか。

VI「いや、違う・・・。」

 それを考えると、半年前の事に不都合が生じる。明らかにエルゼはこの機を見計らってARSを守りに来た。
それにリネクサスと防衛政府がどうやってコンタクトを取るのか分からない。
そう考えると、石田にとってはリネクサスと組もうが組まいが関係が無いという事。
ますます野朗のしようとしている事がわからなくなってきた。

 ピピッ-

VI「出てきたか。」

 リベリオンのレーダーに映る機影、どうやら一機のようだ。反応はセイヴァーとは全く異なっている。
無論マタドールでもない。新手を出してきたらしい。

焔「おら、黒いののパイロット、聞こえるか!?」

 新型のパイロットが通信マイクで話しかけてくる。俺はヘリウムガスを吸って、応答した。

VI「私はBLACK-VI、この機体はリベリオンだ。」
焔「あぁ~そうかい、わざわざ自己紹介どうも。
  俺は大道寺 焔、こいつはあのタウゼンファビュラーの残骸で作った新たな機神、ヴォルケーノだ!」

 その名の通り、モニターに映る機体は真っ赤に塗装され、うっすらとあの百足フォルムを残している感じだった。
ただしこちらは近距離用に大きな大剣、ドラグーンに似たものを持っている。

VI「投降の白旗は持ってきているか?」
焔「そんなもんねぇよ!今すぐここでお前を落す!」

 ちょっとの挑発ですぐ引火する。まさにドライヴァー自身もヴォルケーノのようだ。
しかし、こういう相手ほど弱点が多くある。
 すぐにヴォルケーノは接近し、大剣を振るった。一回転してそれを回避し、まだ斬撃のモーションを行っている姿に蹴りを入れた。

焔「ぐっ・・・!うぜぇほど早ぇ!」
VI「ホメ言葉として受け取っておこう、大道寺。」
焔「そのヘリウム声もムカつくんだよ!!」

 ヴォルケーノが持つ大剣が光だし、峰の部分が展開する。そしてそこから放たれる光、粒子、波。

VI「!?」
焔「見せてやるぜ!!ヴォルケーノの力をぉっ!!」

 真紅のヴォルケーノの周囲に広がる温かく残酷な光、

焔「サンクチュアリ・ブレードォッ!!」

 一瞬にしてその光が大剣を包み、より巨大な光の刃となった。

VI「サンクチュアリ兵装か・・・。」
焔「いくぜぇっ!黒いのぉっ!!」

 ヴォルケーノが大剣を構え、こちらに接近してくる。さっきは回避できたが、この大きさではより早い回避が必要となる。
サンクチュアリ兵器ならば、一撃でも喰らえばそこは消滅する。

VI「S・フィールド最大展開。」

 リベリオンに搭載して唯一の対サンクチュアリ兵器の効果を持つ粒子を機体中心に散布する。
一応の保険になれば、それでいい。

焔「ぶった切る!!」

 サンクチュアリ・ブレードを振り上げた瞬間、すべてのスラスターを切り、真下に落下して斬撃を避けた。
フィールドの端に攻撃が少し当たるが、この防御幕が破れることはなかった。
それもそのはず、現にさっきの戦闘ではこの機体の初陣でテストもしていないにも関わらずサンクチュアリ・ブラスターの直撃さえも防いだのだ。
もう少し、このフィールドを信頼してもいいだろう。
そう考えた俺は、作戦を次の段階へと移行した。


 -同刻 新防衛政府海上基地内-


真(俺が・・・やるしかない!)

 俺は高鳴る胸を押さえて、ハンガーへと向っていた。あの事実を知ってから、俺はどうすればいいのか分からなくなった。夜からずっと
考えていたがじっとなんてしていられない。確か、以前聞いた話によると、ARSの機神と疑似機神をハッキングしているのは、旧ARS本部の近くにある
基地で管理しているらしい。ならば、そこを壊せばどうにかなるかもしれない。ただ、昨夜の戦闘でサンクチュアリ・ブラスターはもちろん、
セイヴァーすら修理中だ。
 そんな時、俺の携帯電話が鳴った。

真「だれだ・・・?」

 登録していない番号からの電話。俺は恐る恐る通話ボタンを押した。

真「・・・もしもし?」
VI「久しぶり。」

 ヘリウムの声、VIであることはすぐにわかった。

真「あ、あんた・・・!」
VI「私の推測からすると、君は昨晩真実を知り、一晩考えた結果とりあえず行動しようとしている途中とみた。」
真「なんでそこまで分かりやがる!?」

 全部が見透かされているようで、嫌な気分だった。複雑な心境の中、基地の警報がなる。

アナウンス「新防衛政府本部基地に、昨晩の未確認機が出現、セイヴァー部隊はただちに現場へ急行せよ・・・」
真「お前、戦闘しながら電話してんのか!?」
VI「真、君に頼みがある。」

 俺の質問を無視して、VIが静かに言った。

VI「レドナと神崎さんに自分の機神をサモンするように言ってくれ。」
真「な、何いってやがる!?・・・まさか!」

 意味不明な頼みに、俺は戸惑った。しかし、よくよく考えてみると、それは簡単に想像のつくことだった。さっきのアナウンスから、VIは今本部にいる。
ということは、機神・疑似機神をハッキングしている場所をぶっ壊す作戦だろう。

VI「そう、そのまさかだ。そして、これを気に一気に防衛政府の不正を暴く。」
真「なんだって!?そんなことできるのかよ!」
VI「あぁ。なぜなら私は・・・、いや、俺は・・・。」

 VIが口調を変えた。そして――

暁「お前の憧れの存在だからな!」
真「・・・・!!!」

 ヘリウムを吸っている声でも、この言葉を聞いて、アイツだと確信した。

暁「いいか、真!知らせる準備が整ったらハッキングを解除させる。レドナと神崎さんにあったら、もう一度連絡くれ。
  その後お前は、神崎さんと一緒にアビューズに乗れ!後の事は通信で伝える!」
真「おう!!分かったぜ!!!」

 俺の目頭が熱くなった。あんなに酷い事をしてしまった俺に、暁は暁のままで接してくれた。

真「暁・・・。」
暁「どうした?」
真「その・・・悪かった、お前の事疑って!」
暁「ばーか、許さねぇよ。作戦が無事成功して、飯奢ってくれたら許してやる。」

 暁らしい返事が、受話器の向こうから帰ってきた。

真「あぁ!ステーキでもキャビアでもフォアグラでもなんでも奢ってやらぁっ!!」
暁「期待してるぜ、真!」

 その声と共に、通話が途絶えた。腕時計を確認する。

真「こっから監獄までは1分もかからねぇか・・・。」
優子「高田准尉、そこで何をしているんです!?はやく出撃しますよ!」

 ハンガーの方から、中尉の・・・いや、洗脳されきったやつの声が聞こえた。

真「嫌だ・・・って言ったら、どうします?」
優子「何を言ってるんですか!?」
真「耳の穴と鼻の穴かっぽじってよぉぉぉく聞けっ!い・や・だ~!!」

 俺はアッカンベーをしながら、ハンガーとは逆向きに走った。監獄に着くまでの、壮絶な鬼ごっこの始まりだ!


 -同刻 旧ARS本部 新防衛政府本部基地 上空-

焔「ったく、なんだよこのフィールドはぁっ!!」
暁「お前みたいな、頭でっかちにはわからねーだろうな!」

 俺はさっきの電話の流れから、BLACK-VIの話し方をするのを忘れて、普段の話し方に戻っていた。フィールドのエネルギーを無駄遣いしない
ために、両手のレバーを思いっきり引き、後に下がった。斬る対象物の無くなったヴォルケーノのブレードが、宙を切り裂く。

焔「この野朗!!」
暁「百足のパクリもんで、このリベリオンを倒せはしねぇよ!」

 両肩のビーム砲を展開し、ヴォルケーノに照射した。

焔「サンクチュアリ・ブレードを舐めんな!」

 ブレードで、攻撃を弾いた。さすがはサンクチュアリ兵装。名前だけではないようだ。


 -AM9:36 新防衛政府海上基地内 特別収容施設-

警備員A「おい、君!何を・・・ぐぁっ!!」

 ここまで辿り着いた俺を迎えてくれた2名の警備員。俺は生まれて初めて大人の顔面をグーで殴った。

警備員B「貴様!!」

 もう一人だ銃を取ろうとする。

真「子供相手にむきになんなよ!!」

 俺は右足で、その男の股間を蹴り上げた。甲高い悲鳴と共に、警備員は倒れこむ。途中で落とした銃を拾い上げて、股間を押さえて蹲る男に突きつけた。

真「割れちゃってたらごめんね~!」

 その男の腰についている鍵を引きちぎり、ポケットの中にあった通行カードを取り上げた。強烈な痛みに、相手は一切の抵抗ができなかった。
通行カードを、カードリーダーに通し、俺は特別収容施設の中にはいった。そこには、見慣れた顔ぶれがずらり並んでいた。

真「おーっす!皆ぁ!助けに来たぜ!!」
レドナ「真!!」
真「レドナ・・・その・・・あん時は悪かった!皆も、こんな所に入れてしまって・・・。
  だから、今から俺なりの罪滅ぼしをさせてもらうぜ!」

 俺は携帯電話を取り出し、さっきの電話番号に電話をかけた。

真「暁、準備完了!!」
暁「了解!!」

 -

暁「さぁ、お遊びはここまでだ!!」
焔「何!?」

 俺はリベリオンを高機動モードに変形させ、一気にハッキングを行っている制御基地へと急降下した。

焔「アイツ!!」
暁「コイツで終らせる!!」

 両肩のビームを発射するが、制御基地の周辺にはバリアが張ってあるらしく、攻撃は無効化された。

暁「マジかよ・・・。」
焔「残念だったな、ブラックさんよぉ!」
暁「ほんと、残念だぜ・・・コイツの姿を晒してしまうのはよ。」

 俺は、コクピット内のボタンを一つ押した。漆黒の装甲が剥がれ落ち、俺のかつての愛機がその姿を現した。
二本の長い角を有する、龍のような姿をした機神、アルファードだ。

焔「う・・・嘘だろおい!!!」
暁「バリアだろうがなんだろうが、コイツにはかなわねぇよ!」

 アルファードの両肩と、両膝の装甲が展開し、オレンジ色の粒子が周囲を包む。

暁「サンクチュアリ・ノヴァ!!」

 バリアは、ノヴァの光を一瞬だけ防いだが、すぐに崩壊し、制御基地も跡形も無く消え去った。この基地が無人であるという内部情報に、感謝すべきである。

暁「真!!」

 俺は通話状態の携帯に向って叫んだ。

真「オッケェェェィ!!」

-

真「さぁ、レドナと神崎さん、サモン!サモン!」

 俺は飛び跳ねながら、催促した。

レドナ「真、その銃を俺たちに突きつけろ。」
真「な、なんでだよ・・・?」
静流「私達は、危機的状況に陥らないと、サモンできないからな。」
真「そ、そうだったな・・・んじゃ!」

 撃つ気はさらさらないが、銃を2人に向って構えた。

レドナ「ディスペリオン!!」
静流「アビューズ!!」

 この収容施設の天壌を突き破り、2機の機神が姿を現した。

真「えっと、神崎さん!とりあえず俺を一緒に乗せてください!暁からの命令っす!」
静流「分かった、乗れ。」
レドナ「他の皆はディスペリオンに!」

-

暁「神崎さん、聞こえますか!?」

 そろそろと思う頃合を見計らって、アビューズに通信を入れた。

静流「こちら神崎、搭乗完了している。・・・それと、何だその声は?」

 まだ消えないヘリウム声に、向こうもすぐに反応した。

暁「まぁ・・・それは作戦が終ってから全部話します。」

 苦笑しながら答えた。説明している暇はない。

暁「神崎さん、佐久間さんがワープゲートの電源を入れてます、すぐに本部にワープしてください!
  それから真!ワープしてこっちに来たら、司令部にいる石田に向って全てを話してやれ!」
静流「了解した。高田、つかまっていろよ。」
真「もちのろん!」

 スティルネスが、一時通信を切った。

暁「それとレドナ、たぶんそっちにはマタドールとセイヴァーがいるはずだ。
  海中にお土産置いといたから、使ってくれ!」
レドナ「あぁ、分かったぜ!」

 通信を中断した途端、後方からエネルギー反応が迫る。

焔「てめぇ、ARSの客かっ!!」
暁「しまった・・・!」

 通信に気を取られて、ヴォルケーノが背後に回っているのに気がつかなかった。ブレードがアルファードの肩すれすれを通る。
直撃は無かったものの、振り返り途中の左肩がぐちゃぐちゃになる。ノヴァはもう撃てない。
 すぐさま両肩の鞘を前に引き出し、両手に太刀を装備した。

暁「向こうのブレードにコイツで対抗できるか・・・?」

 さすがにサンクチュアリ兵装相手に、この装備のみでは不安だった。だが、今はやるしかない。

焔「へっ、アルファードもノヴァが使えなければ、ただの機人だな!」
暁「何とでもいいやがれ!」

 太刀を強く握り締め、アルファードはヴォルケーノに体当たりした。ヴォルケーノは、すかさずサンクチュアリ・ブレードを振り下ろす。
寸前で回避し、ヴォルケーノの胸部に強烈な斬撃をお見舞いする。代償に、右腕の側面がブレードで消え去った。

焔「ぐっ!!」
暁「はぁっ!!」

 仰け反るヴォルケーノの右腕に、2本の太刀を突き刺す。右手としての機能を一瞬失ったヴォルケーノの手から、ブレードが落下した。

暁「ヴォルケーノもブレードが使えなければ、ただの機人だな!」

 焔とか言うヤツが言ったセリフを、そのまま返してやる。

焔「おっと・・・でも、この数で勝てるか?」
暁「!?」

 下からの銃撃。ヴォルケーノの腕から太刀を1本引き抜き、後に下がって回避する。見ると、セイヴァーとやらの量産機がお出迎えしていた。

暁「ちっ、海上基地でテスト中じゃなかったのかよ・・・!」
焔「多勢に無勢、ノヴァが使えないもの同士、数で攻めるしかねぇよな!」

 咄嗟の事で引き抜けなかった、もう一本のアルファードの太刀を引き抜き、ヴォルケーノがそれを構える。

静流「なら、私もARS側の数に加わらせてもらおう。」
暁「神崎さん!」

 ヴォルケーノの後に、アビューズが到着していた。

真「ぐうぉ~らぁ~っ!!いーしーだぁぁーっ!!!」

 突然アビューズの外部音声マイクから、うるさい怒鳴り声が聞こえた。

静流「高田、もう少し静かにしろ・・・。」
真「てめぇがしてきた事、ぜ~んぶバラしてやっから、覚悟しやがれ!!」
静流「・・・・。」

 神崎の声を無視し、真は怒鳴り続けた。神崎にはすこし申し訳なく思う。

焔「くそっ、こいつ薬の事してやがるのか・・・、どうする?」
隆昭「構わん、高田の弱みは握ってある。」
焔「りょ~かい、んじゃ、戦闘続行するぜ。」

 ヴォルケーノが太刀を再び強く握り、アルファードに接近してきた。一瞬の沈黙から察するに、向こう側も何か手を打ってくるのだろう。

焔「セイヴァー部隊!お前等はあのグレーの機神をやれ!」

 ヴォルケーノの斬撃を、残されたもう一本の太刀で受け止める。刃と刃の間から、激しく火花が飛び散る。

静流「高田、舌噛むなよ。」

 アビューズは、急降下し、地上のセイヴァー部隊との交戦に入ったようだ。


 -同刻 新防衛政府海上基地 ハンガー-

 静流がワープしたのを確認し、俺は目の前の敵に集中した。マタドールと、隊長機のセイヴァーだ。

陽子「ディスペリオン一機で、私たちに敵うわけ無い。」
優子「投降するなら、命までは奪いません。」
レドナ「悪いが・・・俺とディスペリオンは止められない。」

 さすがに後に大人2人を乗せて戦うのは窮屈さがあったが、そんな事は関係ないようだ。

剛士郎「夜城君、存分にやってくれたまえ!!」
雪乃「ただ、パイロットは殺さないようにね。」
レドナ「もちろん!」

 ディスペリオンを走らせ、マタドールとセイヴァーに突撃する。

優子「武器もなしに体当たりとは、無様ですね。」
レドナ「目標は、あんたらじゃないんでね!」

 体当たり寸前で高くジャンプし、2機の後に回って海中に飛び込んだ。

陽子「逃げる気!?」
レドナ「敵に背を向ける・・・俺じゃないっ!」

 海中にあった、暁の置き土産を見つけ、それをディスペリオンに装備した。それから浮上し、2機の前に姿を見せる。

優子「!?」
剛士郎「土産にしては、少々豪華すぎるな。」

 はっはっはと、笑いながら司令がその装備を見る。

レドナ「見せてやる、新しいドラグーンの威力を!!」

 漆黒の大剣、以前まで装備していたものとは、大きさが格段に違う。きっと佐久間が作った新たなドラグーンに違いない。
手ぶらのディスペリオンにとっても、俺にとっても、この上ない置き土産だった。


 -8/11 AM09:50 旧ARS本部 新防衛政府本部基地-

 戦闘再開から数分後、どちらも致命的な一撃を与えることも出来ずに、激戦が繰り広げられていた。

暁「こいつ、あのムカデよりパワーアップしてやがる・・・!」
焔「旧式の機神がぁっ!さっさと落ちろよ!」

 鍔迫り合いのし過ぎで、2機の太刀の刃はボロボロになっていた。しかし、お互いこれ以外に装備がない。
ちらりと地上も見てみたが、アビューズと4機のセイヴァーもどっこいどっこいといった感じだった。
 その時、地上のハッチが開き、もう一機の量産型のセイヴァーが出てきた。

静流「さすがに5機と、この騒音は厳しいな・・・。」
隆昭「ならば、その騒音を静まらせてあげよう。」

 通信画面が開き、石田の姿がモニタリングされる。なんと、そのセイヴァーに乗っているのは石田であった。
そして、そのセイヴァーの両手に握られているのは――

恵奈「真~!暁お兄ちゃん!!」
小夜「もう!離してよっ!」
真「小夜!恵奈!」
静流「何・・・!?」
隆昭「さてARSの諸君、武装解除及び、投降をしてもらおうか。」

 2人を握っている両手を高く掲げながら、石田が言った。

隆昭「まぁ、この2人の命がいらないというのなら、別だがね。」
真「てめぇ!!卑怯だぞ!!」
静流「高田落ち着け、下手に刺激すると、2人の命がない!」
暁「いや、2人の命は安全さ。」

 2人を人質にとっていることは、作戦のうちだった。だから、その対策もバッチリ行ってある。

隆昭「何をバカなことを言っている?この状況で、君たちは降伏するしかないのだよ。」
淳「じゃ、そう思うなら腕を動かしてみたらどうだい?」
隆昭「お、お前は・・・?」

 その途端、石田が乗っているセイヴァーの両腕が外れ、ロケットパンチの様に空高く飛んだ。

恵奈「ん~、高い高い!」
隆昭「何!?」
暁「今だ!ブラッディ・モード!!」

 アルファードが一瞬にして、真紅に変わり、上空に飛んだ両腕を1秒もしないうちにキャッチする。2人をコクピットの中に入れ、その腕を破棄した。

淳「ロケットパンチ作戦成功~!」
隆昭「貴様・・・!技術協力の目的はこれだったのか・・・!!」
淳「大当たり!ただ、もう一つ目的はあるんだけどね~。
  暁くん、輝咲ちゃん、準備いい?」
暁「いつでも!」
輝咲「大丈夫です!」
焔「な、何をしやがる・・・?」

 作戦の最終フェイズの幕開けを告げる、佐久間の報告。俺はアルファードのコクピットを再び開け、そこから飛び降りた。

暁「こい!エイオス!!」
輝咲「来て、アルファード!!」

 一瞬にしてアルファードは輝咲の入る所へサモンされ、落下していく俺をエイオスが受け止めた。
さすがに2人をコクピットに入れたまま戦うのはやり辛いし、この状況であれば、エイオスの方が格段に力が出る。

隆昭「まさか・・・エイオスのサモンを許すなど・・・茜は何をしている!!」
淳「ま、どんな権力でも、親子の力には敵わないってね。」
暁「一発グーで殴って、目ぇ覚まさせてやったよ。あんたの薬の力からな。」
隆昭「くそっ・・・!!」

 石田がセイヴァーのコクピットを叩く。

暁「さぁ、出て来いよ。3人とも。」
佑作「ふぁ~っ、昨日から待ちくたびれたぜ。」
かりん「ほんと、ドライヴァーを隠すなら機神の中って、あんたバカじゃないの?」
結衣「私は・・・鳳覇君の事信じてたから・・・ね?」

 地中から、ゲッシュ・フュアー、アーフクラルング、ルージュの3機が姿を現す。この日を見据えて、3人には昨夜のうちから防衛政府本部に侵入
させ、各疑似機神の中で待機させていたのだ。木を隠すなら森の中、パイロットを隠すならその搭乗機の中、多少無理はあると思うが、3人は難なく
この作戦を受け入れてくれた。

焔「一気に5機も相手かよ・・・。」
暁「あのセイヴァーを置いといて5VS5、フェアな戦いじゃないか。」

 地上ではARS側の機神・疑似機神と、防衛政府側の騎神セイヴァー4機がにらみ合いを始めている。上空では、エイオスとヴォルケーノも、にらみ合い
をしている。

暁「さぁ、返してもらうぜ!俺たちのARSを!!」


 -EP23 END-


© Rakuten Group, Inc.